はじめに
初回の読書感想では、『発酵の技法』についてまとめました。ページはこちら。
今回も、発酵に関する有名な本を取り扱いたいと思います。
小倉 ヒラク 著 『発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ』
(角川文庫、2020年、ISBN:978-4041092910)

もともとは2017年に木楽舎から出ていた単行本が、加筆修正のうえで2020年に角川文庫から文庫本として出版されたらしいです。
著者はもともとデザイナーで、発酵の世界に触れたのち、現在は発酵デザイナーとして多方面で発酵文化を広めるために活動されているようです。
感想:発酵ムーブメントのお手軽入門書
★★⯪☆☆ 2.5/5.0
- 軽快な文体で書かれた、発酵と発酵文化のポップな入門書
- 文化人類学や認知科学の観点は広く浅くで、物足りない可能性も
- 「文化を面白く消費する」には注意が必要
① 軽やかな文体、軽やかすぎるかもしれない
まずは中身というより文体に関しての感想です。
本書は、発酵を取り巻く日本の食文化・ムーブメントに注目し、それらを文化人類学の見識を交えて解釈、解説するものです。
基本的にわかりやすい口語調のため、難しすぎて読む手が止まることはないと思います。
ただ、人によっては、文体のノリが軽すぎて逆に読みにくいと感じるかもしれません。
私もそうでした。

意図的に軽い口調にしているのだと思いますが、ハイテンションすぎる気がします。
あと、全体的にうっすらマッチョ?ホモソーシャル?な例えが多いのも気になりました。
総じて、内容はいろいろな文化人類学ネタが詰まった興味深いものですが、
文体でコーティングされすぎて元の味がわかりにくくなっている印象を受けました。
あーおもしろかった、で終わってしまい、読んだ後に内容が残らない人もいるのでは。
と思う一方で、本としてはかなり売れているようなので、商業的には万事OKなのかもしれません。
② 結局のところこの本は何を伝えたかったのか
本として結局のところ何が言いたかったのかよくわからなかった、というのが全体を通しての私の正直な感想です。
章ごとだとなんとなくわかったのですが…。
- 発酵文化の面白さがわかる
- 同時に文化人類学における主要トピックスがなんとなくわかる
- 人類の起源や認知構造についてそれとなく見識が深まる
というのが本書に期待していいことのようで、おそらくこれらを伝えたいのでしょう。
個人的には、Aは雰囲気としては大変よく伝わってきた一方で、BとCはこの本だけで「わかる」「深まる」にはあまりに元の学問領域が広すぎるという印象です。
いずれも「なんとなく」「それとなく」という断りはありますが、正直そのレベルでも本当にわかった気持ちになっていいものなのでしょうか。
本当に知りたいならば、おそらく文化人類学や認知科学の入門書を読んだ方がよいです。
居酒屋でうんちくを垂れる程度でよければ、この本だけで全く問題ないとは思います。
③ 発酵文化は本当に”面白い”のか
これはシンプルに私の問題なのですが、他人から「これ面白いよ!」と勧められると、
もともと好きだったものでも途端に熱が冷めてしまうことがあります。
②でも書いたように、本書では「発酵文化の面白さがわかる」ことを1つの目的としています。
が、そもそも発酵文化は面白いものなのでしょうか。
正確に言うと、面白いものとしてのみ消費してよいのでしょうか。
私としては、発酵文化の始まり自体は面白いとかそういうのではなく、純粋な生・食への欲求だったと考えています。

一方で、発酵や発酵文化に面白さを見出し、消費するのも自然な行為です。
現に、私も発酵は面白いと感じます。発酵文化はほぼ興味がありませんが。
ただ、面白いか面白くないかで判定されることで、視点からこぼれ落ちていく要素が少なからずあるのではないかとも思います。
退屈な発酵プロセスの軽視、地味な地域・食品の矮小化、ナラティブに沿わない要素の無視…とか。
もちろん、そんなことは著者含め発酵文化に関わるプロ達はよくわかっているとは思います。
ただ、受け手側の私たちも、”文化”なるものと関わるときはそこまで考えを巡らせる必要があるように思えます。
そこがもっと本書の中でも強調されていればいいのにと思いました。
が、そうすると説教臭くなりそうなので、きっとこのままがベストなんでしょうね。

ちなみに、先ほど私は発酵文化にほぼ興味がないと書きました。
これに補足すると、そもそも現代先進社会を前提とするのであれば、この世に存在する文化と称される営みはほぼ有害か不要なものだと私は考えます。
社会問題の解決・世界市民の実現にとって、文化は有益性よりも障害と衝突をもたらすことの方が多いと思うからです。
現代社会を前提としなくても、文化と称される要素の半分以上は有害で不要とも思っています。
惰性と権力勾配の温床だからです。
(発酵関連でも、例えば酒造りの文化は、かつての「女人禁制」や今も続く「事実上の新規参入規制」といった、権力勾配や排他性の上に成り立ってきた歴史があります)
ほぼ誰にも同意されたことはありませんし、これで相手の気分を害してしまったこともあります。
でも、昔からずっと思っていることでもあるのです。いつか同じ考えの人と話したいです。
おわりに
いろいろ書きましたが、発酵や文化人類学についてまったく知らない状態で読んでいたら、いい意味でだいぶ印象が違ったでしょう。
発酵の奥深さ・面白さを分かりやすい文で伝えつつ、発酵文化や発酵ムーブメントとそれらの行く先を独自(文化人類学風)の視点から解釈しているからです。
私の場合、すでにいろいろと発酵について学んだり、大学時代に文化人類学に触れたりした経験があったため、新鮮な情報があまりありませんでした。
これが、私にとって本書がいまいちピンとこなかった理由だったのかと思います。
なお、個人的に気になっているのは、著者がオーナーを務めている「発酵デパートメント」です。

全国津々浦々の発酵食品を売っているお店で、食事処も併設しているようです。
下北沢にあるらしいので、今度行ってみようと思います。

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