発酵の知識

【知識#02】自家製発酵のリスクと対策

はじめに

自家製発酵食品は、最低限の材料と道具で簡単に作ることができますが、「微生物で食べ物を作る」という性質上、いくつか注意すべき点もあります。
ここでは、自家製発酵食品を作るにあたって気を付けるべきリスクとその対策を、私の経験・知識ベースでまとめてみました。
なお、私自身も改めて見直したかったので、当たり前のことも含めてあえて詳しく書いています。

私は専門家ではないため、情報の不足などもあると思います。
より深く知りたい場合、信頼できそうな他情報にもあたることを強くお勧めします
このページの最後にも、外部の情報源を付記しています。ご参考までにどうぞ。

Ⅰ. 健康リスク

① 雑菌・カビの繁殖

自家製発酵食品に関してもっとも起こりやすいのは、雑菌やカビの繁殖による腐敗です。
異臭や見た目の変化を伴うことが多いため、間違えて食べることはほぼないとは思います。
ただ、万が一食べてしまうと、食中毒に苦しむ可能性が高いです。

チーズの画像
チーズの白カビや麹カビなどと異なり、家庭内で見かけるほとんどのカビは人間にやさしくない

【対策】
雑菌・カビともに、基本的な対策で発生を抑えることが可能です。

  • 洗浄・消毒
    食材は、土などが残らないようにきれいに洗浄しましょう。
    器具や手指は、すべてアルコール消毒しましょう。煮沸かハイターで滅菌まですると確実です。
    あと、生魚・生肉の近くや、それらを触った手・器具で作業しないでください。
    慣れてくれば、必要最低限のみ消毒 or 滅菌、ほかは水洗い、とかでも問題ないと思います。
  • 最適温度の維持
    作ろうとしている発酵食品の最適温度を維持しましょう。発酵菌の繁殖を助けて、雑菌を負かすためです。
    ものによって、発酵中の最適温度や維持の仕方は異なります。いつか当サイトでもまとめたいですが、まずは自分の環境に合った方法を調べてみてください。
  • 塩や酸の投入
    塩や酸(レモン汁など)を発酵物にきちんと投入しましょう。特に長期発酵や自然発酵の場合など。
    多くの乳酸菌や酵母と異なり、通常の雑菌は塩・酸に弱い場合が多いです。減塩のことはいったん忘れてください。
    作るものや季節によって、塩と酸のどちらを使うかや、入れる量は異なります。
  • 空気の遮断
    乳酸菌や酵母などの発酵中は、なるべく空気との接触を減らしましょう
    ビンを発酵物で満たす、仕切りとなるような重しを載せるなど。
    特にカビなどの糸状菌は、空気のある環境でのみ繁殖します。乳酸菌や酵母は、空気のない環境でも活動できるので安心してください。
    なお、酢(酢酸菌)や麹(コウジカビ)などを作る場合、逆に空気が必要なので注意しましょう。各菌の特徴など、発酵の基本的な情報は下記投稿もご覧ください。

なお、カビに関しては、生えている部分だけを除去すれば大丈夫という人もいます。
ただ、私の意見としては、ほかの部分にも見えないカビの胞子が拡散している可能性が高いため、丸ごと廃棄したほうが良いです。特に数リットル以下の少量発酵ではリスクが大きいと思います。

雑菌の代表格として、強い毒性を持つボツリヌス菌が挙げられます。
しかしながら、「洗浄・消毒」と「塩・酸の投入」で汚染を十分防げることがわかっているため、ことさらに心配をする必要はないというのが率直な印象です。缶詰などの超長期的な密閉食品を作る場合は別ですけれど。
ボツリヌス菌の端的な情報は、東京都のサイトなどが参考になります。
また、こちらの方のnoteなども参考になるかと思います。

人体に害はないのですが、風味に悪影響を及ぼす産膜酵母にも触れておきます。
この雑菌は発酵物の表面に白い膜のようなものを形成し、風味を著しく損ねてしまいます(シンナー臭がする、酸っぱすぎるなど)。
発生したら、すぐに膜を取り除くか混ぜ込むかしましょう。
そのあと、しっかりと空気を遮断する、あるいはしばらく冷蔵庫で管理することで、再繁殖を防げる場合が多いです。
…が、酵母液などの少量・液状の発酵物は、発酵が失敗してしまいがちな印象です。
すでに産膜酵母に餌を食いつくされているのかもしれません。

② 塩分・糖分の過剰摂取

雑菌・カビの繁殖対策で塩の投入をあげましたが、これによって発酵食品の塩分が多くなってしまう場合があります。また、甘酒などの麹を使った食品は、かなりの糖分が含まれています
何も考えずにこれらをムシャムシャ食べていると、発酵食品で健康を損なう皮肉な結果になってしまうかもしれません。

甘酒
「飲む点滴」の異名が示すように、甘酒には豊富すぎるくらいの栄養が含まれている

【対策】

  • 適量を把握する
    適量を把握して、その範囲内での摂取を心がけましょう。1日1回だけ食べるとか、ごく少量を何回かに分けて摂取するとか。
    例えば、甘酒は1日100ml~200mlの摂取が推奨されています。また、塩は1日6~7gが推奨摂取量ですが、漬物1食の塩分量だけで1gを超えることもあります。
  • 水にさらす
    漬物などは、水にさらすことで塩気を抜くことができます。味が薄くなるのをカバーしたいなら、ゆずやレモン汁で風味付けをするといいでしょう。
  • 運動をする
    バカバカしいかもしれませんが、多く入れた分は多く出す(消費する)しかないです。
    体を動かすと、糖分がエネルギーとして消費され、塩分が汗となって排出されます。

塩分が気になるからと言って、慣れていないうちから塩の投入量を減らすのはお勧めしません。雑菌が繁殖して失敗する確率が増えるからです。
少なくとも最初のうちは、上記のやり方で対応したほうが良いかと思います。

③ 動物性食品の発酵

肉や魚などの動物性食品(特に未殺菌のもの)は、以下の理由から発酵の難易度が高いと言えます。

  • 穀物や野菜などの植物性食品と比べて、失敗(腐敗)した時のリスクが段違いです
    これは、腐敗菌がたんぱく質由来のアミノ酸を分解することで、硫化水素などの有害物質を生み出してしまうためです。
  • リステリア菌、サルモネラ属菌などの見た目やにおい、味では察知できない病原菌が原材料についている可能性も真剣に考える必要があります。かなり注意して殺菌しなくてはいけません。
  • 発酵食品の知識や経験が豊富な人でさえ、動物性発酵食品は作らないことを明言しているケースがあります。
鮭の飯寿司
鮭の飯寿司(魚、米などを発酵させた伝統食品)。自家製が盛んだった時代には、ボツリヌス食中毒が発生していたらしい

【対策】
実のところ、私も未殺菌の原料を使った動物性発酵食品は試したことがありません。
そのため、今のところ私から提示できるのは以下の対策のみです。

  • 作らない
    元も子もないですが、動物性食品の発酵はしない方がいいです。
    失敗した植物性発酵食品を食べても死ぬことはほぼないと思いますが、動物性だと命の危険があります。
  • (作るなら)必ずレシピに従う
    何が何でも作りたい場合でも、自己流は絶対に避けるべきです。実績のあるレシピに則りましょう。
    くどいかもですが、地元に動物性発酵食品の文化があるなど、直接ノウハウを学べる場合を除いて、基本的に作るのはやめた方がいいと思います。

なお、市販の牛乳は加熱殺菌されているため、それを使ったヨーグルトやケフィアづくりは比較的安全にチャレンジできます。発酵期間も短いですし、専用の種菌もありますしね。
そういうところから始めてみるのがいいと思います。

Ⅱ. 物理的リスク

① 密閉容器の破裂

意外と侮れないのは、発酵食品を入れていた密閉容器が、発酵で発生した二酸化炭素などのガスに耐え切れずに破裂してしまう危険性です。
運悪く容器をながめているときに破裂してしまうと、最悪失明などのリスクがあります
運が良くても、四方八方に飛び散った内容物を掃除しなくてはいけません。

小さい発酵ビン
完全密閉ができてしまうタイプのガラス瓶は特に危険

【対策】

  • こまめなガス抜き
    1日に1回、盛んに発酵している場合は1日2~3回程度、フタを緩めてガスを抜けば破裂を容易に防げます。
    なお、一気にフタを開けると中身が噴出してあたり一帯にまき散ることもあるので、様子を見ながらゆっくりフタを緩めてください。私は何回もまき散らせています。
  • 完全密閉をしない
    こまめにガス抜きできる自信がない人は、最初からフタを気持ち緩めておく、密閉できるつくりではない容器を使うなどの対策も有効です。
    上からラップをかける、中に塩分や酸をしっかりと投入する、などで密閉しなくてもカビや雑菌が繁殖する確率を下げられます。虫が入ると困るので、何の対策もせず開けっ放しにするのはやめましょう
  • 炭酸PETボトルの利用
    発酵炭酸飲料など、ガスを外に逃がしたくない場合は炭酸用の耐圧性PETボトルを使いましょう。市販の炭酸PETボトルを再利用すればOKです。
    ただし、劣化するので複数回は使用せず、使い捨て容器として利用したほうがいいと思います。

容器の破裂は、発酵に慣れ始めたころに起こりやすい事故のように思えます。
私は破裂させたことはありませんが、密閉ビンをうっかり数日間置きっぱなしにしたことは何回かありました。それ以降は、(発酵炭酸飲料以外)完全密閉をしない方式を採用しています。

なお、参考までにはなりますが、私が普段使っている容器は以下の投稿をご覧ください。

② 金属容器の腐食

容器関連のリスクでもう一点、酸性の発酵食品を金属製の容器に保管することによる腐食があります。
容器も使い物にならなくなりますし、金属の成分が発酵食品に溶けだしてしまうので、中身も廃棄しなくてはいけません。

【対策】

  • アルミや鉄製品は使用しない
    これらの金属は酸に弱いため、発酵食品の保存に使わないようにしましょう。
  • ステンレスや琺瑯製品は原則OK
    いずれも耐酸性があります。ただし、ステンレスは酢などの強酸の長期保存には向かず、琺瑯(鉄、アルミなどにガラス質の釉薬を焼き付けたもの)は表面のガラスが剥げてしまうと腐食リスクが跳ね上がってしまいます。
    特段のこだわりがなければ、ガラスビンを使うのが一番安心です。

③ 発酵菌の混合

作った時期や場所が近い場合に、異なる発酵食品同士で菌が混ざり合ってしまう可能性も頭の片隅入れた方がいいです。健康に害はないと思いますが、意図した発酵が起きません。
特に納豆菌は繁殖力が強いため、近くの発酵食品を征服してネバつかせてしまう可能性もあります。

【対策】
正直そこまで気にする必要はないですが、成功率を少しでも上げたいなら以下を意識するとよいと思います。

  • 時間の分離
    混合が起こりそうな発酵食品を同時に作らないようにするか、作る場合は繊細な発酵食品→強い発酵食品の順番で作業しましょう。
  • 空間の分離
    納豆などの強い発酵食品、または自然酵母などの安定しない発酵食品は、ほかと離れた場所に置く方が安全です。
  • 器具の分離
    強い発酵食品には専用の容器やスプーンを用意するのも有効だと思います。また、作業が終わるたびに手指をきちんと消毒しましょう。

Ⅲ. 法的リスク

① 酒税法違反

ビール・日本酒をはじめとするお酒は立派な発酵食品です。
しかし、日本国内でお酒を造ることは酒税法で原則禁止されています。違反した場合、「10年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金刑(国税庁)」に処される可能性があります。

どぶろく
酒税法で自家醸造が禁止されるまで、どぶろくは農家を中心にごく一般的に作られていたらしい

【対策】

  • 造らない
    酒造りはあきらめて、あとに書く例外の範囲内で楽しみましょう。あるいはすごくがんばって酒類製造免許を取るか。
    または、海外では自家醸造が認められているケースが多いため、外国に滞在する機会があればチャンスがあるかもしれません。
  • 例外を知る自家醸造は禁止ですが、「度数が1%未満」の発酵物は作ることができます。そもそも酒類とみなされないからです。
    したがって、ジンジャービア(ショウガ酵母を使った炭酸飲料)など、ほとんどアルコールが生成されない飲み物は作れます。
    梅酒なども例外的に合法ですが、自家発酵の過程を踏まない(市販のアルコールに果実を漬けて作る)ため、ここでは詳細を割愛します。知りたい方は国税庁のサイトをご覧ください。

もともとは戦前の財源確保のための法律ということもあり、現代でも自家醸造を事実上違法とするのには正直疑問を覚えます。が、今はそうなっています。
違法となった経緯などの詳細は、また別の機会に詳しくまとめたいと思います。

② 発酵食品の不適切な授受

自分で作って自分で食べる、あるいは親しい人にお裾分けするレベルならば問題はありませんが、それ以上に手を広げようとするなら、いろいろなリスクを考えなくてはいけません。

例えばフリマアプリなどで売りたい場合などは、食品衛生法が定めるところの営業許可・届出が要ります。無許可での販売は処罰の対象になりえます。
加えて、万が一販売・譲渡した食品で相手が健康を損なった場合の民事訴訟のリスクもないとは言えません(私が調べた限りで前例は見当たりませんでしたが)。

【対策】

  • 必要な手続きを知る
    自分の作った発酵食品を売るのは、食品販売に関する最低限の知識や手続き(食品衛生法、食品表示法など)を把握してからにしましょう。
  • 渡す相手/もらう相手を知る
    ネット上で授受する場合、フリマアプリなどであれば、購入者に免責事項などをきちんと示して了解を得ましょう。買う側も、販売実績や営業許可を確認できる相手から購入しましょう
    SNS上であれば、授受の前にしっかりやり取りをして、お互いに信頼できる相手か判断しましょう。

Ⅳ. 情報リスク

COVID流行以降、健康意識の高まりもあってか巷では発酵や腸活に関するさまざまな情報が日々発信されています。このサイトもまさにそうですね。

いろんな角度で発酵の奥深い世界を知ることができるのは素晴らしいです。
ただ、中には真偽不明だったり、みょうに偏っていたり、陰謀論チックだったり…な情報もあります。最近はAIの参戦もあり、大混戦といった感じです。
それらの情報を鵜呑みにすると、非衛生的なやり方で発酵させてしまったり、必要のないことまで過度に気にしてしまったりなど、自分や周囲の人たちの健康や精神衛生を損なってしまうかもしれません。

Room菌菌菌とは
当サイトでは、なるべく正確な情報を伝えられるようにがんばっています

【対策】

  • 一つの情報源に執着しない
    「この人の情報が絶対正しい!」とか、「このやり方は絶対間違っている!」という思いはいったん脇に置いて、立場の違う複数の情報を自分で調べるようにしましょう
    一般的に、科学的な裏付けがある情報の信頼性は高いです。ただ、最新研究などはサンプルが少なく信ぴょう性に欠けるものもあるため、妄信は危険です。
    また、AIに聞くのも悪くないですが、結局のところAIがアクセスできる情報の最大公約数を返してくるだけになりがちです。耳障りのよい情報しか言わない、なんてこともよくあります。頼り切りにならないように注意しましょう。
  • 発酵の効果に期待しすぎない
    発酵は万能薬ではないです。万能薬だったら私の体調はもっといいはずですし、アメリカ人の平均寿命はもっと短いはずです(アメリカでも発酵食品は注目され始めていますが)。
    健康になったらいいな~くらいの軽い気持ちでいた方が健全です。

なにはともあれ、接する情報の種類を増やしてバランス感覚を身につけましょう
自分が科学派か自然派か、またはその中間かを決めるのは、そのあとでも遅くないはずです。

おわりに

大ボリュームになってしまいました…。ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。

最初にも書きましたが、ここの情報はあくまで私の経験・知識ベースです。
私自身常日頃から気を付けていることで、情報リスクでも触れましたが、発酵について調べる際や発酵食品を作る際は、複数の情報源にあたるようにしましょう

基本的なことさえ守れば、発酵はそんなに難しいものではないです。一緒にがんばりましょう。(何をだ)

おまけ(参考情報)

私が調べられていないだけかもですが、日本語のWebサイトだと、体系的にリスクと対策がまとまっている情報が見つかりにくい気がします。あっても情緒的というか…。

というのも踏まえ、私が参考にしたことがある情報源をすこし挙げておきます。適切な情報を見つけられなかった時などにご参照ください。

  • Sandor Ellix Katz 著 『発酵の技法』(水原文 訳、オライリー・ジャパン)
    おそらく自家製発酵の界隈では超有名な方の本。発酵の基本や、(若干大味だけど)世界の発酵食品のレシピが載っています。
    発酵食品のカテゴリごとに「トラブルシューティング」のページもあり、実践的です。あと単純に本としても面白いです。日本語訳版の公式サイトはこちら
  • ISAPP公式サイト「Suggestions for Making Safe Fermented Foods at Home
    日本語訳すると、「家庭で安全な発酵食品を作るための助言」とか。
    微生物学者が、自家製発酵にあたって気を付けるべきことを簡潔に書いています。
    ISAPP(国際プロバイオティクス・プレバイオティクス科学協会)という国際非営利団体のサイトに載っています。英語が苦手な人は、ブラウザ翻訳機能などを使ってご覧ください。

そのほか、「home fermentation risks(家庭での発酵のリスク)」や「safely ferment at home(家で安全に発酵させる)」とかで検索すると、信頼できそうなサイトがそれなりに出てきます。
あとは、自家製発酵の料理本とかにも気を付けるポイントがまとまっていそうな気はしますが、読んだことがないためここでは触れません。

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